乳腺
はじめに
乳腺の良性・悪性疾患を対象に診療をおこなっています.
多くの診療科を有する大学附属病院の特徴を生かして,腫瘍センター,放射線科,形成外科,緩和ケアセンターなど,他科と連携し手術はもちろんのこと,内分泌療法,化学療法,放射線療法,乳房再建など,いずれの治療も行うことができます.
また,家族性乳がん卵巣がん症候群の疑いがある場合は,ご希望によって院内で遺伝カウンセリングを受けることができます.
患者さんが,疑問に思っていること,不安に思っていること,こういう治療をしてほしい等,何でも遠慮なく当科の医師にご相談ください.最新の知見に基づいて最善を尽くし,患者さんと共によりよい医療を行えるように日々努力しています.
対象となる疾患
- 乳腺の悪性疾患(乳がん),乳腺の良性疾患,家族性乳がん卵巣がん症候群など
特色
特に,手術では,センチネルリンパ節生検,形成外科による1期的乳房再建術などを取り入れ,術後合併症の少ない,整容性(美容的)にすぐれた手術を実施しています.進行再発乳がんに対してはホルモン療法,化学療法,分子標的治療等を積極的に実施しています.
また,遺伝カウンセリングを行い,家族性乳がん卵巣がん症候群の診断がついた場合には,自費診療ではありますが,倫理委員会の承認を得て,リスク低減乳房切除術やリスク低減卵巣卵管切除術を自院で行えます.
治療法
1薬物物療
乳がんの治療を行うにあたり,サブタイプ分類という考え方が定着してきました.免疫染色を行い,腫瘍の性質に合わせた治療を選択します.調べられる要素はがん細胞の増殖に関わるタンパク質で,ホルモン受容体(エストロゲン受容体[ER]とプロゲストロン受容体[PgR]),HER2,Ki67です.
2乳がんの手術(乳房の手術+リンパ節の手術)
- 乳房切除術(全摘術)
乳房全部をとる手術です.通常乳頭としこりの上の皮膚を含めてとり,筋肉は切除しません.手術後のイメージとしては,乳頭のない男の人の胸のようになります.
- 乳房部分切除術(温存術)
しこりの周りに乳がんのひろがりがあまり見られない場合に行われます.しこりを含むがんの範囲から1~2cmの余裕をもって,部分的に切除します.部分切除の術後は原則的に放射線治療を行います.
- 腋窩郭清術
リンパ節に転移があるかどうかは手術前の検査で確認できることもありますが,多くの場合は手術で取り出して顕微鏡で見ないとわかりません.リンパ節にがんの転移が認められた場合には,脂肪と一緒にわきの下のリンパ節をひとまとめにして取る手術のことを言います.
- センチネルリンパ節生検
センチネルリンパ節生検とはリンパ節に転移があるかないかを予測する検査の一つです.センチネルリンパ節は「見張りリンパ節」などとも呼ばれ,がん細胞がリンパの流れにのって最初にたどり着くと思われるリンパ節のことです.これを手術中に取り出し,顕微鏡で観察して転移を調べます.転移が無い事が予測できれば,リンパ節郭清の手術を省く事ができ,手術後の後遺症(しびれ,むくみなど)を少しでも減らすことができます.
- 乳房再建術
失ってしまった,失うかも知れない乳房を手術により取り戻すのが乳房再建手術です.当科では乳房再建手術を希望されている方に,乳腺センターと形成外科によるチーム診療を行っています.乳がんの治療において最も大切なことはがんをきちんと治すことです.そのためには乳房再建手術が乳がん治療の妨げになることは避けなければなりません.それぞれの患者さんのがんの状態を十分に考慮した上で再建方法や再建時期を考えていきます.
- 再建時期
- 1一次再建
乳がんの手術と同時に乳房再建手術を開始する方法です.
- 2二次再建
乳がんの状態などにより一次手術ができなかった方や,温存手術治療後の乳房の変形が残った方に対し,二次的に(乳がん手術後に)あらためて乳房を再建する方法です.
- 1一次再建
- 再建方法
- 1自家組織再建
おなかや背中の余剰な脂肪と皮膚を用いて乳房を再建する方法です.利点は自分の組織であるため,自然なやわらかさや質感が得られること,大きめの乳房や下垂した乳房などあらゆる乳房欠損の形状に対応できることが挙げられます.欠点はインプラントに比べ手術時間、入院期間ともに長くなることです.脂肪と皮膚につけた血管と胸の血管をつなぐ手術であるため,つないだ血管がつまり,移植組織が生着できない可能性があります.
- 2人工物(インプラント)再建
シリコン・インプラントを使って乳房を再建する方法です.手術時間が短く,低侵襲である利点があります.欠点はシリコン・インプラントは人体にとって異物であり,感染などの合併症が起こる可能性があります.合併症がおこった場合は,インプラントを取り出さなければならないこともあります.インプラントでは大きな乳房や下垂した乳房を作ることが難しく,対側が年齢とともに下垂してもインプラントで再建した乳房の形態には変化が起きないという問題点もあります.
- 1自家組織再建
手術件数
臨床試験について
現在は行っておりませが,国内の医師主導型臨床試験であるJapan Breast Cancer Research Group (JBCRG)の臨床試験にも積極的に参加していく予定です.